介福の試験範囲「地域福祉」大阪介護学校の講師が行う国家試験対策
地域福祉とは、年齢や性別、戸籍、障害の有無などにかかわらず国民みんなが地域で安心して生活できるシステム作りのことをいいます。それは制度で行われるサービス(フォーマルなサービス)。家族や友人、近隣住民、ボランティアなどの協力や支援を受ける(インフォーマルなサービス)が存在します。それではそんな地域福祉にかかわる知識を学んでいきましょう。
日本の地域福祉の始まり(前半)
日本で地域福祉という言葉が登場し、そのことについて論議され概念として注目されたのは、1970年代初頭です。その中でも代表的なもので、岡村重夫の理論があります。この岡村重夫は1970年(昭和45年)に「地域福祉研究会」、1974年(昭和49年)に「地域福祉論」を出版し、その中で地域福祉の構成要素として3つのことが挙げられました。その3つとは、次のようになります。
①施設ではなく地域社会での具体的な援助活動としてのコミュニティ・ケア
②コミュニティ・ケアを可能にするための前提条件として一般的地域組織が活動と福祉組織が活動の必要性
③予防的社会福祉
以上の3つの要素が地域福祉の本質とし、社会関係の全体性を保持しつつ適切な支援を行うためにはコミュニティ・ケアが必要とされました。
日本の地域福祉の始まり(後半)
1990年代になると、分権化と住民の主体性や福祉力の両者の相互作用により、新たな公共概念を構築し、そこに地域福祉が成り立つものとする右田紀久惠による「自治型地域福祉論」が提唱されました。右田は地域福祉の目的は、住民の生活上の問題解決と予防、地域住民の生活圏保障と社会的自己実現であるとしています。
その後、2000年(平成12年)の社会福祉事業法から社会福祉法への改称・改正により、「地域福祉」という言葉が法律の条文に初めて記載されるました。「地域福祉」という言葉は社会福祉法第1条の法の目的として次のように示されています。
社会福祉法の目的(第1条)
この法律は、社会福祉を目的とする事業の全分野における共通的基本事項を定め、社会福祉を目的とする他の法律と相まって、福祉サービスの利用者の利益の保護及び地域における社会福祉(以下「地域福祉」という)の推進を図るとともに、社会福祉事業の公明かつ適正な実施の確保及び社会福祉を目的とする事業の健全な発達を図り、もって社会福祉の増進に資することを目的とする。
この上記の社会福祉法への改正により地域福祉の推進が初めて法定化されました。そして社会福祉法第4条で次のように規定されています。
地域福祉の推進(第4条)
地域住民、社会福祉を目的とする事業を経営するもの及び社会福祉に関する活動を行うものは、相互に協力し、福祉サービスを必要とする地域住民が地域社会を構成する一員として日常生活を営む、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられるように、地域福祉の推進に努めなければならない。
【厚生労働省(社会福祉法)】
さらには、社会福祉法第6条第2項において「国及び地方公共団体は、地域住民が地域生活課題を把握し、支援関係機関との連携等によりその解決を図ることを促進する施策その他、地域福祉の推進のために必要な各般の措置を講ずるよう努めなければならない」と定めています。
地域福祉の考え方で大切な「ソーシャル・インクルージョン」
ソーシャル・インクルージョン(社会的包括)とは、すべての人を孤独や孤立、排除や摩擦から援護し、健康で文化的な生活の実現につなげるよう社会の構成として包み、支え合うという考え方です。
このソーシャルインクルージョンは2000年(平成12年)に厚生省社会・援護局「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会の報告書」においてソーシャル・インクルージョンの理念を推進することが提言されたのが始まりです。
貧困や障害、犯罪歴、外国籍などの人を排除せず、社会的弱者となりやすい方たちも社会の一員として包み、支え合う社会を目指すものがソーシャルインクルージョンの考え方です。
地域包括ケアシステム
地域包括ケアとは、「医療や介護が必要な状態でも、可能な限り住み慣れた地域でその方が有する能力に応じて自立した生活を続けることができるように医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保されなければならない」という考え方です。その実現のため地域住民や専門職といったネットワークによる連携の仕組みのことを地域包括ケアシステムといいます。この「地域包括ケアシステム」という言葉は、2005年(平成17年)の介護保険法改正で初めて使われました。
地域包括ケアシステムのイメージは、障害や老化によって支援が必要な方でも住み慣れた自宅やサービス付き高齢者住宅など住み慣れた地域で過ごしてもらえるよう医療・介護・自治会やボランティアなど周りからフォローすることにより、入所施設ではなく自分が望む住居で過ごすことができるという考え方です。また周りの社会資源を構成するためにも地域包括支援センターやケアマネージャーなどが利用者様の連絡調整や連携を図ります。地域包括ケアシステムでは自助・互助・共助・公助が地域の特性に合わせて役割を果たすことが求められます。
地域包括ケアシステムの自助・互助・共助・公助
・自助:自分自身で健康管理を行い、自ら市場のサービスを購入するなど自分のことは自分でします
・互助:近隣の住民同士で支え合うことです。費用負担が制度に裏付けされていない自発的なもの(インフォーマルサービス)
・共助:社会保険のように制度化された相互扶助(フォーマルサービス)
・公助:上記では対応できない生活困窮者に対して税金による負担により対応すること
ここで問題!
【問題】
地域包括ケアシステムでの共助は、地域住民同士の支えあいをいう。
【答え】
答えは「×」です。共助は、社会保険のような制度により提供されるフォーマルなサービスのことです。近隣住民同士の支えは「互助」です。
重層的支援体制整備事業
2020年(令和2年)の社会福祉法の改正により、地域生活課題の解決に資する包括的な支援体制を整備することを目的に市町村が行うことができる事業として、「重層的支援体制整備事業」が創設されました。
重層的支援体制整備事業とは、属性や世代を問わない相談支援として実施することにより、地域生活課題を抱える地域住民及びその世帯に対する支援体制並びに地域住民などによる地域福祉の推進のために必要な環境を一体的かつ重層的に整備する事業をいいます。市町村には、重層的支援体制整備事業を実施する時に適切かつ効果的に実施するためにも「重層的支援体制整備事業実施計画」を策定する努力義務も化されています。
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