大阪の介護の学校現役講師が解説。介護福祉士試験範囲の「身体拘束」
今回は、介護現場でも問題となる身体拘束について解説していきたいと思います。この投稿では「身体拘束の具体的な行為」「身体拘束禁止の根拠となる法律」「やむを得ず身体拘束を行わなければならないときのルール」について解説していきたいと思います。日本病院協会からの検査結果では身体拘束が行われている病院が9割、介護施設の割合では4割となっています。このような事態がある中、私たち介護従事者として、しっかりとどのような行為が身体拘束にあたるのか?を把握し知識不足で過ちを起こさないように学ぶ必要があります。
身体拘束となる行為を把握することは介護従事者にとって必要な知識
介護保険施設や在宅での現場では、身体虐待の中に含まれる身体拘束についてまとめられています。その拘束行為は、厚生労働省の「身体拘束ゼロ作戦推進会議」の中で具体的な行為として11の項目で発表されています。それではその11項目とは何なのか?解説していきます。
①徘徊する利用者を車いすやベッドなどに縛り動けないようにする行為
②ベッドから転落防止のため体を紐などで縛る行為
③ベッドから降りられないよう4点柵やサイドテーブルで囲む行為
④点的・経管栄養のチューブを抜かないように手足を縛る行為
⑤点滴・経管栄養のチューブを抜かないよう、また皮膚を掻きむしらないようミトン型の手袋を着用する行為
⑥車いすや椅子から立ち上がってしまい転倒しないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、サイドテーブルなので動きを制限する行為
⑦立ち上がれる能力がある利用者に立ち上がりにくくさせるような椅子を使用する行為
⑧服を脱いだりオムツを外してしまう利用者に介護衣(つなぎ服)を着用させる行為
⑨他人への迷惑な行為を防止するために体をベッドに縛り動きを制限する行為
⑩過剰に向精神薬を服用し動きを制限する行為
⑪利用者自身では開けることのできない部屋の窓に隔離する行為
以上の11項目が厚生労働省が発表した身体拘束の具体的な行為となります。
【参照:厚生労働省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」について】
上記の11項目以外に利用者のベッドの横にセンサーマットを設置し、本人の行動を監視することも身体拘束の対象となりますので施設等で行う場合には本人様、家族様の許可や記録などをしっかりと整えて実施する必要があります。
身体拘束せざる得ない場合とは
身体拘束は通常では禁止されており緊急時、やむを得ない場合のみに認められています。ただし、3つの条件があり、この3つの条件を全て満たす場合には、やむを得なく身体拘束を行う流れとなりますので、この3つの条件についてしっかりと把握しておく必要があります。また、介護福祉士の試験範囲でもありますので試験に挑む方には覚えておいて欲しい内容になります。それではその条件について解説していきます。
非代替性
本人、もしくは他の利用者様に身の危険や、命に関わる場合に、身体拘束を行うこと以外に方法がないときにはこの条件がクリアとなります。ただし、「他の利用者と距離を取る」「話を傾聴する」など他の方法でこの危険性を回避できる場合は、身体拘束以外の方法で行う必要があります
切迫性
本人、もしくは他の利用者様の命や身体に危険が及ぶ可能性が高く、今すぐに対応しなければならないときにこの条件がクリアとなります。
一時性
身体拘束は一時的であり、危険の回避ができたと判断された場合には、すぐに身体拘束を解除する必要があります。
またこれらの条件とともにと注意しておかなければならないのが「記録の記入・保管」と「本人様・家族様の許可」と「個人の判断は×」の3つのルールです。身体拘束を行う場合、まずは本人様や家族様に説明を行い、許可をいただいてから行うことが適切です。また、その日時や許可をいただいた方の続柄や名前なども記録として残しておくことがベストです。そして、身体拘束を行った具体的な行為や拘束時間や本人の様子等も記録し保管しておくことが大切です。また、この身体拘束を行う判断としては個人的なものではなく、施設や病院など全体で検討した内容のもと実施しなければなりません。自分自身の判断基準だけで行う事は法令違反となりますので、身体拘束がやむを得ない場合には必ずポイントを押さえて行う必要があります。
身体拘束禁止の根拠となる法律
身体拘束という行為は、身体的虐待の中に含まれる定義となります。この身体的虐待について定められている法律は、
平成18年4月1日施行、高齢者虐待防止法「高齢者に対する虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」
平成24年10月1日施行、障害者虐待防止法「障害者の虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」
上記の法律が根拠となり、「身体的虐待」「心理的虐待」「経済的虐待」「ネグレクト(介護・育児放棄)」「性的虐待」の禁止、または通報義務や処罰について定義されています。
この内容は、介護福祉士の試験範囲にも含まれますので我々介護従事者はしっかりと学んでおく必要があります。実際、介護現場の支援時にも知らなかったでは済まない内容になりますので、何が虐待の行為にあたるのか?ということをしっかりと把握し利用者への支援をする必要があります。
虐待については違うページでも詳しく解説していますので、そちらのページを参考にしていただきたいと思います。
【介護福祉士の試験範囲です。障がい者虐待について解説していきます。】
介護従事者として重くとらえなければならない虐待について
今回は身体的虐待の中に含まれる身体拘束について詳しくまとめていきました。虐待の種別にも様々な種類が存在し、我々介護従事者はその知識をしっかりと学んでおく必要があります。
そして、私たち介護従事者にもその虐待が確認された場合には市区町村保健などの行政機関に報告する義務もあるということを忘れないでください。重度の疾患や障害をお持ちの方は、虐待されているのにもかかわらず、その事実を周りの職員や家族さんに伝えられない利用者様はたくさんいます。我々が行っていく支援は透明性のあるものでなければなりません。これは個人の意識だけではなく、介護業界全体として「虐待ゼロ」を取り組んでいくことが理想の介護の一歩だと強く願っています。
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