老化に伴う心理的・精神的変化を大阪介護学校講師が介護福祉試験対策
介護福祉士の試験範囲でもある「発達と老化の理解」の知識である老化に伴う心とからだの変化について、この投稿では解説していきたいと思います。老化の伴う身体的機能の変化、知的・認知機能の変化、精神的機能の変化をしっかりとポイントを押さえて覚えておきましょう。また、国家試験対策だけではなく実際の看護現場でも役立つ知識になりますのでぜひ、介護現場でご活用してください。
生理的老化と病的老化
成熟期以降に起こる生理的な機能の変化を老化といいます。老化は「生理的老化」と「病的老化」に分類することができます。
それではその2種類の老化について次に解説していきます。
生理的老化
20〜30歳から徐々に生じる、すべての人に起こる不可逆的な変化です。特徴として「普遍性(誰にでも生じる)」「内在性(老化の原因が自身によるもの)」「進行性(老化は逆戻りできない)」「有害性(生物にとって好ましくない)」の4つが挙げられます。
病的老化
すべての人に必ず起こるとはいえない変化です。様々な疾患や外的環境によって寿命が短縮します。疾患が治ることによって回復する可能性があり、生理的老化と異なり可逆的です。
生理的老化の学説
【エラー破局説】
細胞内のDNAが損傷することにより老化が生じると考える説
【消耗説】
加齢による臓器や器官の萎縮や縮小に対して、それを補う再生機能が低下することで老化が生じると考える説
【フリーラジカル説】
活性酸素による細胞の損傷で老化が生じると考える説
【機能衰退説】
加齢によって臓器や器官が機能低下することで老化が生じると考える説
【老化プログラム説】
人の細胞分裂の回数があらかじめ決まっていることで老化が生じると考える説
ここで問題!
【問題】
消耗説では活性酸素による細胞の損傷で老化が生じると考える。
【答え】
答えは「×」です。消耗説は加齢による臓器や器官の萎縮や縮小に対して、それを補う再生機能が低下することで老化が生じるとする説です。
老化に伴う身体的機能の変化
老化は身体的機能に様々な影響を及ぼします。免疫機能が低下するため感染症にかかりやすく、病気からの回復にも時間を要するようになります。また、環境の変化に対する適応力も低下することで暑さや寒さに対して、からだが正常に作動せず体調を崩しやすくなります。それではどのように変化していくか次に解説します。
老化に伴う器官やからだの部位の変化
【循環器系】
①酸素運搬能力の低下(ヘモグロビン量の減少)
②脈拍の乱れ、血圧の上昇
③動脈硬化にかかりやすくなり、負荷に対応するため心臓の筋肉が肥大(心肥大)していく
【消化器系】
①唾液の分泌量の減少
②消化液の分泌量の減少と腸の蠕動運動低下による便秘
【呼吸器系】
①肺活量の低下や残気量の増加による息切れ
②誤嚥の増加
【泌尿器系】
①夜間の頻尿
【関節や骨】
①関節液の減少・関節可動域の縮小
②骨量や筋肉量の減少、骨密度の低下
③筋肉量の減少(上肢よりも下肢のほうに現れやすい)
【皮膚】
①体内の水分量や皮脂の減少により皮膚の乾燥化
老化に伴う知的・認知機能の変化
知能は記憶力、理解力、判断力などをもとに物事を考え、問題を解決するために用いられます。そんな知能は、生まれ持った能力と関わる「流動性知能」、日々の学習や経験などと関わる「結晶性知能」に分けることができます。それではその2つの品について解説していきます。
流動性知能と結晶性知能
【流動性知能】
新しいことを学んだり、新しい場面に適応するために活用される能力です。記憶力や計算力など生まれ持った能力に左右されるため老化によって低下しやすい特徴です。流動性知能のピークは30歳代といわれます。
【結晶性知能】
教育や学習、人生の経験の積み重ねによって成長していく能力です。理解力や判断力などが含まれ、老化による影響が少なく長期にわたって維持されやすいのが特徴です。結晶性知能のピークは60歳代といわれます。
記憶の変化
老化によって記憶力の低下も起こります。特に特徴的なのが長期記憶の中でもエピソード記憶が老化によって低下しやすいといった特徴があります。
記憶力の低下に関しては下記のページで詳しく解説していますので参考にしてください。
【記憶について】
感覚機能の変化感覚機能とは
聴覚、視覚、嗅覚、味覚、感覚の五感を指します。感覚にも低下が見られ一般的には次のような変化が見られます。
老化に伴う感覚機能の変化
【聴覚】
高音域の音が聞き取りにくくなります。音の識別する力が低下します。
【視覚】
近方視力が低下し、老眼になります。視野が狭くなり、色や明るさによる識別能力が低下します。
【嗅覚】
匂いを感じ取りにくくなります。
【味覚】
味に対する感受性が低下します。特に塩味が低下します。
【触覚】
暑さ、冷たさ、痛みなどの感覚が低下します。
老化に伴う精神的機能の変化
老年期に差し掛かると高齢者は老いを自覚し、様々な喪失体験を経験していくことになります。また、身体的機能の低下によって活動量が減ることにより、意欲の低下もみられるようになります。こうした要素と関わる精神的機能の変化として、老年期の精神疾患と人格の変化について解説していきます。
老年期の精神疾患
老年期の精神疾患として代表的なものに「老年期うつ病」があります。老年期うつ病は、若い人と比べて抑うつ気分は軽いですが、不眠やめまい、頭痛、食欲の低下、便秘などの身体症状の訴えが強く現れることが特徴的です。そのため「仮面うつ病」とも呼ばれます。症状は朝方から午前中にかけて悪化するなど、1日の中でも変動があるのが特徴です。また、老年期うつ病は、記憶障害や見当識障害などの症状も現れるため、認知症と間違われることもあり「仮性認知症」とも呼ばれます。
社会情動的選択理論
年を重ねることで自分にとって満足感や充足感を抱けるような活動を選び、新たな関係よりも親しい人との関係を重視するような傾向を社会情動的選択理論といいます。
老年期における人格の変化
老化に伴い様々な喪失体験に直面します。そのような状態や状況に適応していくのかは重要な視点です。ライチャードは、定年退職後の男性高齢者がどのような人格の変化を迎えるのかを5類型に分類しました。この分類では退職後の状況に適応していくことができるタイプと、適応していくことができないタイプに分けることができます。それでライチャードの人格の変化の分類について解説していきます。
ライチャードの人格の変化の5類型
【状況に適応】
円熟型:現実を受け入れ、積極的に社会活動に参加していくことができるタイプ
安楽いす型:社会活動に対しては消極的で、依存心もつよいが穏やかに日々を過ごすことができるタイプ
装甲型(自己防衛型):老化への不安を押しとどめるために、社会活動を続け若さを誇示し自己防衛を図るタイプ
【状況に不適応】
憤慨型(外罰型):老化を受け入れず過去の失敗について他人を責めることで自分を守ろうとするタイプ
自責型(内罰型):過去の失敗について自分自身を責め、抑うつ状態になるタイプ
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