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【氷山モデルと構造化】強度行動障害を持つ方に関して、適切な関わりと支援を提供する方法

まず、強度行動障害とは、精神科的な診断として定義されるものとは異なります。いわゆる診断名や障害名や病名ではないと言うことです。相手に対して噛むつきや頭突きなどを行ってしまうなどの直接的他害行為」や睡眠の乱れや同一への保持(拘り)などの間接他害的行為」または自傷行為などが通常考えれない頻度と形式でみられ、生活する上で支障をきたしてしまう障害です。また、この強度行動障害とは、良くなったり悪くなったり、現れたり消失したりすることも特徴の一つです。それではそんな強度行動障害を持つ自閉スペクトラム症の関りとして、具体的な考え方や支援方法としてここでは「氷山モデル」と「構造化」について解説していきます。

氷山モデルを活用した支援

氷山モデルとは、自閉スペクトラム症の人の様々な行動を水面上にある氷山の一角に例え、その見えている部分だけに着目するのではなく、氷山の水面下の原因に着目して、支援の方法や本人の特性や強みなどに視点を置いて考えるツールとして使用されるます。

氷山は、水面上の出ている部分より水面下に大部分が隠れています。この隠れた部分が生じている行動の原因となる部分であり、それを「本人の特性」と「環境と状況」という2つに分けます。

例えば、氷山の見えている部分を「活動中に自傷行為をしてしまう」といった課題としましょう。

その背景には、水面下に隠れている氷山である「本人の特性」と「環境と状況」があります。例えば、本人の特性が、「見えないものの理解が難しい」「話し言葉の理解が難しい」という特性があるのにもかかわらず、環境と状況が「言葉だけで指示をしている」「どうなったら終わりかがわからない」といった場合、本人の特性」と「環境と状況」がミスマッチしてしまい、自閉スペクトラム症の人は不安を感じ、その背景から課題となっている行動である「活動中に自傷行為をしてしまう」といったことが起きてしまうと考えます。

そこで、私たち支援者の考え方としては、原因がわかったところで、本人の特性と環境と状況をしっかりとマッチングし、利用者様にとって不安なくしっかりとコミュニケーションをとり、内容やスケジュールを共有できれば自傷をしてしまうといった行為を防ぐことが可能です。例えば、先ほどの事例の場合「内容を視覚的に伝えてあげる」「このタイマーがなれば終わり」など様々な支援につなげることができます。

このように氷山モデルのシートを活用し、原因追求をし、本人の強みを生かしたアイデアを考えるツールとして活用いたします。

なぜ?強度行動障害が起こるのか

障害から来る苦手さを持つ障がい者様の方はたくさんいます。そして、その原因としては、一人ひとりの特性があると考えられます。

例えば、「先の予測をすることが難しい」「見えないものの理解が難しい」「抽象的で曖昧な表現での理解が難しい」「聴覚の過敏や鈍麻がある」など様々な特性を持っているのが強度行動障害を持つ障がい者様の特徴です。

これらの苦手さ(特性)は、その方たちへの不安や緊張をもたらすことになり「不安や緊張から逃れたい」「この気持ちを誰かわかって欲しい、気づいて欲しい」といった気持ちから、その状態を周りの人に伝えられない結果から課題行動といわれる自傷行為や他害行為、物壊し、睡眠の乱れ、多動などといった行動を周りの方にアピールや表現するために行います。

また、誤った学習である「誤学習」も関係しています。例えば、自閉スペクトラム症を持つ方が先ほど説明した苦手さから、相手に気持ちを伝えられない時に適切な行動を教えてもらう機会がなかったりした場合には、さらに激しい行動をとることもあります。そして、その激しい行動を取ったときに、周囲の人がその行動を抑えようとするために、自閉スペクトラ症を持つ方の希望をやむを得ず了承してしまうことが誤学習といわれます。

このように、適切な行動を教えられていないことが原因で、誤った対応を繰り返すことにより、ますます強度行動障害の状態が悪化することも考えられます。

特に、子供の時にしっかりとした学習を行うことにより、その方の特性を強みに変えれるような学習が行われていれば、誤学習を防ぐことができ、その方自身が適切な方法で相手に物事を伝えることができます。また、支援者も話し言葉では理解できないとう特性を持った方に「絵カードなどで説明する」などその特性に応じた適切なコミュニケーションを図ることができ強度行動障害が起こらず、自閉スペクトラム症を持った方にとっても良い環境を整えることができます。

強度行動障害者にとって適切な支援とは

適切な支援において2つのポイントがあります。

強度行動障害の状態にならないよう予防する

まず、このポイントに関しては、「先を読む支援」が必要になります。例えば、聴覚が敏感な方に関しては、外出時に公園に出かけたときに子供たちがたくさんいる所では、子供の声に反応してしまうなどを先に予測しておくことにより時間帯を考えて、人の少ない時間に設定するなど環境を整えることができます。また、工事現場で騒音が問題でイライラしてしまう方もいらっしゃいますそういった方に関しては工事現場を通らない導線を考えて目的地まで向かうなど強度行動障害が起こらないようその方の特性にもとづいて支援をすることも大切です。

また、待つことの大切さも必要です。相手が動かなくなり、声かけをしても反応しないといった場合、「もしかしたら相手の合図を待っているだけなのか」「自分の気持ちの区切りをつけているのか」「理解ができていないのか」「何か要求があるのか」「確認したいことがあるのか」「困っているのか」「自分の中のルールがあるのか(拘り)」などのことが考えられます。

そういったときには「待つ」という選択肢も考えてください。その方のペースを大切にすることも適切な支援につながります。無理に動いてもらおうとこちらから積極的に関わってしまった場合、強度高度障害につながる原因にもなるので注意が必要です。

社会参加を進めることができる

先程の「強度行動障害の状態にならないように予防する」これができれば社会への参加を行うことが可能となります。ここでいう社会参加とは「人と人が接する」ということです。それは外出支援やグループに参加することがここでは存在します。

私たち支援者は、私たちの理解や配慮によって強度行動障害の予防や軽減ができます。そして、本人の社会参加を進めることができるということを認識することが重要です。強度行動障害の状態になっている人は「困った人」ではなく「困っている人」として捉え、周りの人たちが合理的配慮を行うことが必要です。

自閉スペクトラム症の支援の基本となる「構造化」

構造化とは

構造化とは、自閉スペクトラム症支援の用語としては、出来る限り本人の周囲の環境を視覚的または具体的に明確にし、系統的に整えることにより、自閉スペクトラ症を持った方でも理解しやすい環境のもとで活動を行ってもらう支援方法です。

自閉スペクトラム症の人は、先の予測ができないことにより、混乱や不安、イライラにつながることが多い傾向にあります。我々、自身ももし何かの作業を行ったときに終わりが告げられておらず先がみえない状態で、同じ作業を繰り返した場合、「この作業をいつまで行うのか?」といったストレスが生じると思います。

この思いは自閉スペクトラム症の方も同じです。例えば、話し言葉では理解できない特性を持った方に支援者が「あと1時間したら終わりです」という言葉で説明した場合、理解ができずその方にとっては終わりのみえない状況になります。それはストレスにつながり「この場所から逃げたい」という思いから強度行動障害となる行動につながるということです

そういった問題を解決するのが「構造化」という支援方法になります。

構造化の支援方法

構造化を実践する前に、支援者は自閉スペクトラム症の対象者の方の特性をきちんと押さえておくことが重要です。そのためにはアセスメント(事前の評価)を行う必要があります。

支援の対象となる自閉スペクトラム症の人にとって「どうしたらわかりやすいのか」「何を困っているのか」「何を好んでいるのか」「何ができるのか。または、できそうな事はあるのか」といったことを本人や周りから情報を得ます。または、観察した内容を把握することがアセスメントです。その情報から支援対象者である自閉スペクトラム症の方の特性を前提とした支援が行えます。

そして、その内容を前提に「わかりやすい」「落ち着く」ための環境を整えてあげます。

その中で、確実に自閉スペクトラム症の方には、工夫し伝えたい6つの情報があります。「いつ」「どこで」「何を」「どのくらい」「どうやって」「次は」を本人の特性に応じてわかりやすく伝えます。これらの情報がわからない場合、不安につながりますので注意が必要です。

構造化の5つの視点

≪時間の視点≫

この先のスケジュールを把握していただくことにより、生活の見通しを持って安心して行動することが可能となります。例えば「始まりと終わり」「時間と場所」「すること・したこと」をここでは明確にしてあげます。先の見えないスケジュールに対して不安を感じる自閉スペクトラム症の方に多い傾向ではあります。

≪場所の視点≫

ここの場所では、どのような作業や活動を行うのかといった理解をしていただく必要があります。例えば、就労支援の場合など休憩する場所と作業する場所が一緒の場合、その方にとっては混乱する原因となります。休憩は休憩をする場所、作業は作業する場所など明確に部屋を分けることによってスイッチのオンとオフがしっかりと行うことができます。

また、苦手な刺激を少なくし集中していただく環境も必要です。パーテーションを使い視覚的な刺激が入らないように環境整える。壁側を向いて作業することにより集中できるような席の配置など配慮するなど様々な方法が考えられます。

≪やりとりの視点≫

支援対象者の自閉スペクトム症の方の特性に応じてわかりやすいコミニケーションツールを使用する必要があります。

例えば、コミニケーションの方法に視覚的に相手にお伝えするコミニケーション方法の提案(視覚支援)などが有効な場合も多い傾向にあります。このように個々に応じた支援方法を考え、特性に応じた強みを活かした支援が必要です。

≪見え方の視点≫

これは目で見て、すぐにわかる情報で提示します。例えば何かの作業する場合に、机の上にある材料や部品をバラバラに置いて、作業を行えばミスが起こったり、物をなくたりするする原因にもなります。

そういったことも考え、作業に必要な材料や部品を整理して、なおかつ作業の手順に沿って使う材料を並べたりします。例えば左から右に並べた材料を同じような手順で行うなどすれば、視覚的に明瞭になるため間違いの軽減を行えます。

方法としては「何をするのか」「どのくらいするのか」「いつ終わるのか」「終わったら次は何をするのか」これらの要素をいつもと同じやり方で伝えることにより、自閉スペクトラム症の方でも間違いが減り、作業の効率が上がります。これらの方法を「ワークシステム」といい活動の自立度が高まる支援方法です。

自閉スペクトラム症を持った方の特性に応じて支援する

自閉スペクトラム症の症状が特性は、ひとくくりにはできないのが特徴です。性格や家庭環境、人間関係など個々に応じて様々なパターンが存在します。

我々、支援者としては一人の自閉スペクトラム症を持った利用者様で成功したから、あの方も成功するといった考えは間違いであり、一人ひとりに応じた支援方法やコミニケーション方法などを用いて、自閉スペクトラム症を持った方でも、不安や混乱が生じないように過ごしていただく必要があります。

そして、現場で働く介護従事者の方の考え方として覚えておいてほしいのが、もし自傷行為などが起こってしまった場合「ただ、自傷行為をしている」といった目に見える状況の把握ではなく「何に困って、何を不安に感じているのか」そういった目線で物事を捉えてください。そうすれば、その方の課題となる行動の背景が見え、その特性に応じた支援方法や環境を整えてあげることができます。

強度行動障害が起こる原因としては、「本人の特性」と「環境・状況」がミスマッチしていることが原因です。我々自身の配慮があれば、自閉スペクトラム症の方が社会参加を行うことも可能です。

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